相続放棄とは
相続放棄とは、相続が開始した場合に、相続人が被相続人(故人)の権利義務を一切承継せずに放棄することをいいます。
相続放棄の申述人
申述人とは、相続放棄する旨を家庭裁判所に申し立てる方のことをいいます。原則として相続人が申述人となりますが、相続人が未成年者や成年被後見人の場合には、その法定代理人(親権者や成年後見人)がそれらの者に代わって申述を行います。また、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するため、申述人となりえます。
なお、未成年者と法定相続人が共同相続人の関係にあり、未成年者と法定相続人の利益が相反する場合は、当該未成年者について、裁判所の特別代理人の選任手続が必要となります。
具体的手には、以下のようなケースです。
①夫が死亡し、相続人は妻と未成年の子供2名のケースで、妻が全て相続し、子供2名は相続放棄を行うケース | 未成年者が相続放棄をする場合は、親権者(このケースでは妻)が未成年の子供に代わって相続放棄を行います。しかしこのケースでは、妻が子供2名の相続を放棄することは、妻の相続分を増やすことになるため、妻と子供2名の利益が相反します。 そこで、このような場合は、子供2名それぞれについて、家庭裁判所で特別代理人を選任してもらい、特別代理人が子供それぞれについて相続放棄を行います。 ※但し、妻が先に相続放棄をするか、あるいは子2名と同時に相続放棄をする場合には、利益相反行為とはならず、特別代理人の選任は必要ありません。 |
②夫が死亡し、相続人は妻と未成年の子供2名のケースで、妻と子供1名が相続し、子供1名は相続放棄を行うケース | このケースでは、親権者である妻が子供1人について相続放棄をすることは、他の子供1名の相続分を増加させることになるため、利益相反行為に該当します(民法第826条2項)。したがって、相続放棄する子供について、特別代理人の選任が必要です。 |
3か月の熟慮期間内に相続を承認するか放棄するか決められないときは、相続の承認又は放棄の期間伸長の申立を行います。
相続放棄の申述期間
相続放棄の申述期間について、民法は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない(第915条)。」と定めています。
この点、相続開始(死亡日)から3か月以内であれば、期間内であることが明確です。しかし、条文の規定にある「知った時から3か月以内」というのは、具体的にいつの時点からをさすのでしょうか。
最高裁昭和59年4月27日判決は、「相続放棄の熟慮期間は、原則として相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人が右各事実を知った場合であっても、右各事実を知ったときから3箇月以内に相続放棄をしないのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由がある場合には、熟慮期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきである」と判示しています。
後順位相続人が債権者からの通知を受け、先順位者の相続放棄によって自己が始めて相続人となったことを知ったようなケースでは、債権者からの通知を受けた日の翌日(初日不算入のため)が熟慮期間の起算点となります。
相続放棄の申述先
相続放棄の申述は、被相続人(故人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。最後の住所地とは、死亡時点において実際に住んでいた住所となります。したがって、住民票上の住所とは必ずしも一致しない場合があります。